「もうすぐ、ね……」
船の舳先が波を切るのを眺めながら、ぼんやりとデボラが呟いた。
「そうだな。あと3時間もあれば着くんじゃないか?」
「めきー」
一週間の船旅も終わりに近づき、ようやく見えてきた砂漠の大陸を見据えてリュカは答える。旅の間に随分とデボラに懐いたメッキーは、彼女の肩に止まって同じように大陸を眺めている。
「1ヶ月も無かったけど、あんた達と旅しててそれなりに楽しかったわ」
「そりゃよかった。俺もそこはかとなく楽しめたよ」
そんなことを言い合ってクスクス笑う。本音を口にしないのは、いつのまにか暗黙のルールになっていた。それでもお互いぼんやりと本音がわかる程の仲にはなってきている。本当は相当楽しんでいたくせに。
「テルパドールに着いたらどうするんだ?」
「そーねぇ……ひとまず全体を見渡してどんな国か把握したら、また別の土地に移動するわ。砂漠なんてどう頑張ったって住み心地悪そうだもの」
「別の土地に、って1人でか?」
「まぁ、やれるだけやってみるわよ」
今までだって1人だったもの、と自嘲気味に笑うデボラ。
その笑みを見たら、自然と口が動いていた。
「……なぁ」
「ん?」
もし。
もし出来るなら、もう少しだけ。
「あー……っと……」
「……何よ?」
そんな言葉が無意識に頭に浮かんだことに、リュカは少し動揺する。
言いかけた言葉を心の彼方まで蹴飛ばし、なんとか平静を保ったままで会話を続ける。
「女の1人旅は流石に危険だろう。何だったら、俺の仲間を付き合わせるぞ?」
「あらホント? なかなか気が利くじゃない」
「メッキーなんかどうだ? 回復も攻撃もいけるし、あんたに随分懐いてるようだし」
「めきっ!?」
デボラにじゃれついていたメッキーが、驚いたような鳴き声と共にこちらを振り向く。その様子を悪い方向に捉えたらしいデボラが、不安そうにメッキーに問いかけた。
「……メッキー、あんたはどうなの? 今までのご主人と離れるの、イヤかしら?」
「…………くぁ」
一瞬、こちらを見るメッキーの瞳が苛立っているようにみえた。しかしそれは本当にほんの一瞬で、メッキーは再びデボラにじゃれつきはじめる。イヤなわけではないらしい。
「めっきっきー!!」
「あら、ふふふ。そうよね、こんな腹黒い性悪ご主人よりあたしの方がいいわよねー」
「誰が性悪か」
「否定できる要素が一つでもあって?」
「やかましい」
今更になって否定する気もないが、正面切って言われると少し引っかかる。しかし反論出来る余地など一切無いので無理やり話を切っておく。
すると、船室から乗組員の声が聞こえた。
「おーい、デボラ嬢ー」
「……何かしら」
「荷物の最終点検でさぁ。確認頼んます」
「はいはい。大音声で呼ばなくたって行くわよ、全く」
デボラはそのまま船室へ向かったが、何故かメッキーはその場に残って、自然と2人(というか1人と1匹)が取り残される事となる。
パタン、とドアの閉まる音が聞こえた直後。
―――バサバサッ!!
「いってぇ!?」
大きな羽音と共に、メッキーの翼がリュカの顔面に直撃する。
「こらメッキー、急に何を……」
「ぐあ、ぐぁーっ!!」
「うわっ!?」
あまりの剣幕に思わず仰け反る。普段の温厚なメッキーからは想像もつかない暴れ方だ。
「めっきっき、めきゃーっ!!」
「何だ何だ、何怒ってるんだ!?」
聞いたところで答えが返ってくるわけもなく、呆れたような目をしたメッキーはそのままぷい、と顔を背ける。
まさかここに来て野生の本能が目覚めたわけじゃないだろうな、デボラに付き添わせるのはよそうか、と考え直しかけた時、ブラウンが楽しそうに寄ってきた。
「おぅ、リュカとメッキーが喧嘩なんて珍しいなー」
野次馬なら来るんじゃねぇ、と内心苛ついていると、メッキーが再び忌々しげに鳴く。
「くぁー!」
「え、通訳? 別にいいぞ」
首を傾げながら(傾げているかどうかは首が短すぎてハッキリとわからないが)ブラウンがリュカの方を向く。
「めきゃきゃっ、めきー!!」
「うーんと、『最初はもっと度胸のある男だと思ってたけど、見当違いも甚だしいわ!!』」
「くぁ、ぐぁー!!」
「えっと、『いい加減にしなさいよ、この根性無し!!』」
「こっ……こ、根性無し……!?」
突然の暴言にリュカは少々たじろぐ。
「めっきっきー! めきー!!」
「『なーにが“メッキーなんかどうだ?”よ! 言い訳ばっかりじゃない、情けない!!』」
「ぐぁっ、くぁーーーっ!!」
「『惚れた女くらいしっかり掴まえときなさいよ、いくじなしーーっ!!』」
「うぐっ……!」
グサリ、グサリ、と逐一リュカの胸に突き刺さるメッキーの罵倒。指摘される部分が図星すぎて、棒読みなブラウンの言葉でも全てが心にクリティカルヒットする。
大ダメージを受けて絶句するリュカとは裏腹に、罵倒しきったメッキーは落ち着いてきたらしく、鳴き声も少し穏やかになる。しかしそれに伴うメッキーの言い分は全く穏やかではなかった。
「めきゃきゃっ、めっきっきー」
「『こんな度胸皆無のヘタレご主人様なんてもうウンザリだわ。デボラが一人で旅するって言うなら、ご主人様のかわりに私があの子を守ってみせる』」
「……くぁー」
「『……ご主人様のお望み通り、ね』」
そこまで言ってもまだ物足りなさそうな顔をしていたメッキーだったが、結局日向ぼっこをするゲレゲレの方へと飛んでいってしまった。バサバサと翼を広げる彼女(だと気付いたのはついさっきだが)の後姿を呆然と見つめて、リュカはボソリと呟いた。
「……辛辣ぅ」
「メッキー、いつもはあんな風じゃないんだぞ?」
ブラウンがリュカを見上げて続ける。
「ただあいつ、一番応援してたから」
「何を?」
「そりゃ、リュカとデボラのことに決まってるだろ」
あまりにストレートに切り込まれて居た堪れなくなったリュカは、ブラウンから目線をはずして船の舳先に目をやる。波を切って進む船の速度は、快晴と追い風も手伝っていつもより早くなっている。
船室で呑気に荷造りするデボラに、リュカの焦燥に気付く気配など一向にない。仮面の笑顔を貼り付けるのには慣れているので、そう簡単に気取られるわけはないのだが。
二日前の真夜中。話し終わってから泣き疲れて眠ってしまったデボラを部屋まで運んでベッドに寝かせてやる時、正直理性が限界を超えそうになったのは否めない。堪え切れずに、布団をかける前にこっそり瞼にキスをしたのは一生黙っておくつもりだ。
要するに、リュカは完全にデボラに落ちていた。
それも気付いたのがつい最近。いつ落ちたのかなんて思い出したくもない。しかも自分の提案したプロポーズとは名ばかりの“交渉”のおかげで、引きとめようにも身動きすら取れない。
そんなことはつゆ知らずのんびり荷物のチェックをしているであろうデボラに、リュカはこっそりと毒づく。
ずるいじゃないか。別れ際の最後の最後に、あんな爆弾仕掛けてくるなんて。
心のうちだけでもやもやしていたつもりだったが、こちらの事情は仲間達には筒抜けらしい。しかも会話能力の有無を問わず。ゲレゲレに八つ当たりしているらしいメッキーを眺めながら、ブラウンはリュカのすぐそばの樽によじ登ってちょこんと座った。
「引っ付いた振りだけだなんて寂しいじゃんかよ。オイラも、2人はもっと一緒にいた方がいいと思うぞ?」
幼い口調で恋愛論を語られるのに違和感を覚えるリュカに構わずブラウンは問いかけた。
「なーリュカ、なんで一緒にいてほしいって言わないんだ?」
「そりゃあお前、キッカケやら、タイミングやら……いや待て違う、そもそも俺はそんなこと思ってないったら」
意地っ張りも追加だな、と呟くブラウンを無視してリュカは続ける。
「大体、前も言ったろ? 俺はこの旅に他人の人生まで巻き込むつもりはないって」
「聞いたけど……デボラがついていきたくないかどうかなんて、聞かなきゃわかんないだろ?」
「あのなぁ、モンスターがうようよしてるような危険なご時勢に旅したい人間なんかそうそういるわけが……」
「その危険なご時勢に、デボラはおいら達と別れて一人旅しようとしてるんだろ? このまま一緒に旅した方が安全だとおもうぞ?」
正論過ぎて返す言葉が無い。
ブラウンのまっすぐな瞳から逃れるようにリュカは空を見上げる。それでも突き刺さってくるブラウンの視線が、何故だか本当のことをいわなければいけないような気分にさせる。まるで叱られている子供のようだ。
「……怖いんだ、何か。自分のせいで、あの人が傷ついたりいなくなったりするんじゃないかって思ったらさ」
一緒に攫われて10年以上も奴隷生活を過ごしたヘンリーのように。仲間も何もいない土地で突然一人にされてしまったゲレゲレのように。自分の目の前で炎に焼かれて殺された父のように。どれもこれも、自らの弱さが原因だとリュカは思っていた。
今の自分はあの頃ほど弱くはないと自負している。しかし天空の装備を集めて勇者を捜す人間は、確実にモンスターの標的になり得る。子供の頃の旅とは段違いに危険で、己の身を守ることしか出来ない事態だっておこるかもしれない。自分の弱さのせいで誰かを傷つけるのはもう嫌だった。それは仲間のモンスターも、もちろん彼女も。
「ふぅん、なるほどなー」
それを聞いたブラウンの声は、何故だか弾んでいた。
何でコイツこんな嬉しそうなんだよ、と不思議に思ってすぐにリュカは固まった。今俺は一体何を言った。
元々盾を手に入れるためだけに利用した女に、傷ついたりいなくなったりするのがいやだ、どころか、傷ついたりいなくなったりしてしまうのが怖いから巻き込みたくないと。
そんなこと思える相手が自分にとってどういう存在か。
「なー、リュカさぁ」
どうやら嵌められたらしい。
「ほんとにデボラのこと大好きなんだなー」
そんな風にさらりととどめを刺すブラウン。リュカは火照る頬を片手で覆い隠し、うなだれながらボヤく。
「……ホントかなわん」
「だろーなー」
あまつさえ肯定までされてしまえば、もう手も足も出るはずなど無かった。
砂漠の中を素人が歩くのは自殺行為のため、船着き場で出会ったキャラバンに同行させてもらって馬車を進め、その結果日が傾きだした頃には目的地にたどり着くことができた。
まわりがラクダばかりなので馬車馬のパトリシアが寂しくないように、と仲間モンスター達は馬車に残っている。テルパドール国に入ったのは、リュカとデボラの二人だけだった。
灼熱の砂漠の中、悠然とそびえるテルパドール宮殿を見上げる。
「着いたわね……」
「ああ、着いたな」
スケールの違いに相当驚いたらしく、デボラは口を開けっぱなしにして巨大な宮殿を見ていた。
「どう、砂漠の宮殿のご感想は?」
「……大きい。綺麗。すごい」
「また適当な……他にもっと言い方あるだろ?」
「ううん違う、表現したいんだけどうまく言えないのよ。……そうね、あんな言い方じゃ馬鹿みたいね」
何て言えばいいのかしらねぇ、と腕組みして真剣に悩むデボラを眺めて、リュカも同じように腕組みして悩んでいた。
先程のブラウンとのやり取りは彼の思惑通りに功を奏し、自分の気持ちを完全に認めたリュカは、デボラを引きとめる方針に落ち着いたらしい。馬房から二人を見送る仲間達はしたり顔をしていた。メッキーだけは不安げだったが。
何て言えばいいんだろうなぁ、とそれとなく引きとめる方法を模索する。堂々と“一緒に来てくれ”と言えないあたり、やっぱり俺は根性無しだな、とメッキーの言葉を思い出して苦笑する。
タイムリミットは刻々と迫る。
悩んだ末に言葉が見つからなかったらしいデボラは考えるのが面倒になったらしく、その場でうーんと伸びをした。
「ねぇ、宮殿の中が見たいわ。行きましょ?」
「あ? 一緒に行くのか?」
「何よ不満? どうせ最後なんだもの、一緒に行ったっていいじゃない」
さりげないデボラの言葉。きっと彼女は何の意識もせずに言っているんだろうが、それが余計にリュカを焦らせる。
最後、か。
サラッと言ってくれちゃって。
「……なぁ」
これ以上引き延ばす訳にはいかない。
「何よ?」
うぁ、くそ。余裕たっぷりな顔しやがって。
「あの……さ」
意を決して切り出す。一人旅は危険だから、メッキーだけじゃ不安だから。ダメだ、どれもしっくりこない。どの理屈なら一番彼女に響くんだろうか。
その時。
「デボラ様にリュカ様、だな?」
「……へ?」
口を開こうとした瞬間に後ろから声を掛けられて、リュカは拍子抜けする。振り返ると、傭兵らしいゴツい体つきの男が麻袋をもって立っていた。
「ルドマン様からの使いのもんだ。これをあんたらに渡すよう頼まれた」
「あぁ、それはどうも」
すかさず仮面の笑顔で受け答えをして、日に焼けた腕で差し出された麻袋を受け取る。重みがズシリと伝わってくる。中から聞こえる金属音からして、中身は硬貨だろう。それも相当な量の。
「で?」
「で、といいますと?」
「旅の調子だよ。上手くいってるのか?」
「言われなくても順調よ。突然現れて、あんた一体何なわけ?」
「だからルドマン様からの使いだって言ったじゃねぇか。あんたたち夫婦の様子を見て来いって言われてきたんだ」
不機嫌そうな態度をとるデボラを気にする風でもなく、その男は続ける。
「順調なら、ルドマン様には“問題無し”と伝えときゃいいな」
「あ、ちょっと! 待ちなさいよ!」
「そんじゃまたー」
ルドマンの使いを名乗る男は重い麻袋がなくなったおかげで身軽になったらしく、リュカ達を残してさっさと消えてしまった。
麻袋から、ジャラ、と金属がこすれる音がする。中をのぞくと、ゴールド金貨が袋いっぱいに入っていた。頑張れば半年程度は暮らせそうなほどの量だ。
「……これじゃ、何のためにサラボナから出たのかわかんないじゃない」
「よっぽど心配してるんだろうよ、愛されてるじゃないか」
「そうっ……かも、だけど」
面倒かけないように町を出たのに、なんでそんなに優しいの。困ったような嬉しいような、微妙な表情で歯がゆそうにデボラが呟く。
「突き放してもくれないのね……」
本当の親子でなくとも、やはり親は子が心配なものなのだろう。泣き出しそうなデボラを見て、リュカは少しだけ羨ましくなる。
それにしても……ルドマン様の使い、か。
「まさかあの人、行く先々に使いを置いて見張ろうってんじゃないだろうな……?」
「なっ」
ふりかえったデボラが固まる。
「さっき“そんじゃまた”っつってたろ? “また”ってことは“次”があるんだろうよ」
「ちょ、ちょっと。それって今後は監視付きの旅ってこと?」
「そう……なるかもしれんな」
娘を心配して監視をつけるような親だ、護衛役の旦那と離れて旅をするなど言語道断だろう。デボラが一人旅などしようものなら、使いの者が引っ張ってでもサラボナへ送ってしまうだろう。もともと“天空の盾を手に入れる手助けをする代わりに、世界を自由に巡る手助けをする”のが契約だったのに、それでは契約違反になってしまう。大体、娘を危険な目にあわせたからという理由で天空の盾を取り上げられてしまっては元も子もない。
そう思って、何気なく出た一言だった。
「こりゃもうしばらく一緒にいてもらうしか……」
「へっ!?」
ばっ、とデボラがリュカの服にしがみつく。
「いっ、いてもいいの!?」
初めて見る目の輝きだった。深い青色の瞳が、宝物を見つけた子供のように爛々としている。
「…………」
「…………」
「……」
「……っ!!」
思わずその瞳に見惚れて黙っていると、我に帰ったらしいデボラがはっとして手を離す。
「ち、違っ! 今のは、その……そうよ、一緒にいなきゃいけないんなら、仕方ないわ、ちょっとくらいなら、辛抱したって」
顔を赤くしながら、平静を保ったふりをしどろもどろと続けるデボラ。リュカの視線は、さっきまで掴まれていた服の裾から目の前のデボラへと移る。
もしかして、お互い同じこと考えてたんだろうか。
「…………」
「……ニヤニヤしてないでなんか言いなさいよーっ!!」
「あぁ、ごめんごめん」
言われて初めて口元を押さえる。でも待ってくれ、こんなこと言われて口元緩まないわけないだろ。
「なぁ」
「何よ」
照れ隠しで不機嫌そうに返すデボラは、顔のほてりを隠すために両手で頬を包んでいる。
「ちょっとわがまま聞いてほしいんだけどさ」
「……内容によるわ。言うだけ言ってみなさい」
一切こちらを振り向かずにそっけなく言うデボラを、人目を気にせず後ろから抱き締める。この前より熱く感じるのは体温のせいなのか砂漠のせいなのか。
引き留めるための理屈など、考えるだけ無駄だったんだろう。
「もーちょっと一緒にいたい」
「……“もーちょっと”、だけ?」
そんな風に、潤んだ瞳で悔しそうにこちらを睨んで上目遣い。これだからこの人はずるい。
結局一番響くのは、飾りのない一言だ。
「……もっと、一緒にいたい。から、旅についてきてほしい……です」
あまりの飾らなさに我ながら呆れるが、デボラはそれで十分だったらしい。満足そうな溜息とともに、体重を預けられる。
「しょーがないわね、もうっ」
「……もういいでしょ。離れてよ暑苦しいっ」
パタパタと手で払われて、仕方なく彼女を解放する。少しだけ離れるのが名残惜しい。
「あたしは宮殿に行きたいの。とっととしなさいよ……リュカ」
「!!」
そう言ってデボラはリュカを置いて宮殿の方へとさっさと歩いて行ってしまう。
しかし、暑苦しい扱いだとか宮殿だとか、リュカの興味はそんなところにはない。
未だかつて、自分の名前を呼ばれただけでこれほどまでに衝撃を受けた人間がいただろうか。
「な、なぁ今っ」
初めてマトモに名前を、と続けようとしたところで、
「な・に・よっ!!」
……と耳まで真っ赤になって振り返ったデボラの声にさえぎられる。あそこまで赤くなるということは、今までろくにリュカを名前を呼んでいなかった、という自覚はあるらしい。
本当にこの人はずるい。
こんな些細なことで、認められただなんて思えてしまう。
リュカは再び緩む口元を隠すのを諦め、足早に進む照れっぱなしの彼女に言葉を返した。
「何でもないよ、デボラ」
END
全体
『主デボが仲良し友達夫婦だっていいじゃない』というのがこの話のコンセプトでございます。
書こうと思ったきっかけはグランバニアでのデボラのやりとりでした。
それ以前は、「あーこの人自分の立ち位置わかってないでこういう振る舞いしてるのかなー」と思ってたのですが、双子が生まれてから(だったか前だったか)「あたしとパパは血がつながってない云々」を語られてからはガラリと印象が変わりましたね。
普通、養子だってわかってるなら捨てられないようにいい子に振る舞うものでしょうに。なんでそんな我儘っ子になっちゃったのさ。
ま、まさか我儘でいるのは演技なのでは!?
……という妄想が原点でした。
台詞の節々にも、ただの我儘女王様じゃないのは滲み出てるんですよねぇ……。それを読んでたら、小魚扱いの仕方もどことなーくぎこちなく思えてきまして。
もしかしてわざと取り繕ってんじゃないのデボラさん、と妄想が徐々に膨らみ始めるわけですよ。
結婚イベントの辻褄合わせをしてほしかったなー、と思ってたのもきっかけの一つです。
だってストーリーに絡まなさすぎじゃないですかデボラ様………!!
たったあれだけの絡みで結婚まで決意するとか、主人公どんだけドMなの!!もしくはどんだけ色気に弱いの!!天国のお父さんが泣くぞーっ!!
……とか原作やって思ってたので、じゃあ自分で辻褄合わせるしかないか、と妄想に肉付けをし始めるわけですよ。
それがどうして腹黒性悪男と悪い子もどきの超シスコンの恋愛話になるのやら。
まぁ、なんとか書きあがったので個人的には満足です。
リュカ話
腹黒5主、思ったより評判良くて嬉しかったです。
ホント動かしやすかったなー。言ってほしいセリフがポンポン出てくる優等生でした。性格悪いけど。
主人公はもっと歪んで育ってもいいはず、というのが実は裏テーマだったりします。
パパスの死と奴隷生活が同時に降ってきたんだから、狂ったっておかしくない状況だと思うんですよ。心を許せるのはヘンリーだけ、みたいな。
それ以外の人間に心を閉ざしてしまっても、だれも文句言えないレベルの不幸さ加減ですからね。
それなのに、なんとか奴隷生活から抜け出して故郷に帰ってみたら焼け野原で、絶望の淵に叩きこまれたと思ったらパパスの手紙と天空の剣が残ってるんですから。
地獄の底の蜘蛛の糸みたいに降りてきた希望ですもん、妄信したっておかしくない。
天空の勇者のためだけに生きる、みたいな歪んだ生き方に向かって突っ走っても咎められやしないと思うのです。
そこで歪まないからこそ、勇者の父やら国王やらなれるのかもしれませんけどね。
家のリュカも、デボラに会ってからは徐々に歪みが矯正されていくんだと思います。
子供たちが出来てからはもっと矯正されていくんでしょうね。
デボラ話
捏造もいいとこですね。いっそ違うキャラなんじゃないか、くらい(ぇ
しかし、これが我が家のデボラ様でございます。女王というよりツンデレ。
原作ではフローラとの絡みがほとんど描かれていなかったので、これは妄想するしかないな、と妄想した結果シスコンになってしまいました。
孤児の姉妹で、しかも姉となると、余計に執着(?)しちゃうんじゃないかなー、と思ってたのですが実際はどうなんでしょう。(当方一人っ子)
それに引き取られた場所が場所ですから、愛情表現が歪んじゃってもおかしくないんじゃないかな、みたいな。
お気付きの方もいらっしゃると思いますが、過去の話の中でデボラが急に性格を変える場面の迷子の少年。あれ、一応幼少リュカなのです。台詞も一緒です。
歪み始めたきっかけもそれが終わるきっかけも同じ人、とかだったらちょっと運命っぽくないですか?(笑
あと個人的に、
*SFC・PS2……引き取り騒動でデボラが暴れた結果、孤児院に取り残された場合
*DS……デボラが暴れたけど、ルドマンがなんとか引き取った場合
みたいにパラレルワールドだとおもしろいな、と思いましたねー。
仲間話
ピエールが好きだッッ!!(いきなり何を
普段は“そりゃっ!うりゃっ!”しか言わないけど、書いていくうちにどんどん可愛くなりやがって大好きだこんちくしょー。
家のピエールは、ちょっと天然気味な真面目くん、という設定になっております。敬語ナイト萌え。
ブラウンも随分可愛くなってくれました。
4匹の中では一番ちびっ子に見えますが、最終話のようにちょっと大人な対応したりするので、精神年齢は一番上なんでしょうね。
なんだかんだでみんなブラウンには逆らえないといいなー。見ためとのギャップがあるといい。
ゲレゲレはとうとう意志を持って喋ってはくれませんでしたねぇ……。
裏設定ではぶっきらぼうな兄ちゃんですが、読み返してみると普通にじゃれつくのが好きなやんちゃ坊主ですね。
顎の毛か額の毛をもっふもふしたい。抱きつきたい。きっと感触はたまらんのだろうなぁ。
メッキーにはとっても感謝しております。
君がいなかったらこの話は終わらなかったよ、ホントにありがとう……!!(どうやってリュカをたきつけるかかなり迷ってたのです)
紅一点なのでデボラとは仲良しです。ブラウン翻訳では怒鳴り散らしてましたが、ふだんは「あらあらうふふ」な大人で優しい子なのですよー。
どうでもいいですが、仲間になった経緯とか。
*ピエール … ラインハットに向かう途中に出会って、家族の怪我を治してもらったお礼に同行
*ブラウン … 神の塔からラインハットへ向かう途中、飢え死にしそうな所でご飯を貰ったお礼に同行
*ゲレゲレ … 言わずと知れたカボチイベント
*メッキー … 炎のリングを取りに行く途中、他の魔物にいじめられてたのを助けてもらったのと楽しそうなので同行
さらにどうでもいい年齢順とか。
ブラウン≧メッキー>ピエール≧ゲレゲレ>>相棒
そういや相棒の描写は本編では一切無かったですね……。
主×デボ話
コンセプトは上記のとおり『主デボが仲良し友達夫婦だっていいじゃない』です。
書き始めた時は、恋人だとか夫婦だとかそういう甘ったるい関係とはまた別の、『共犯者』みたいな関係を想像していたのですよ。
思考回路が似通ってるからなんとなく通じちゃう、というか、打てば響くような憎まれ口の叩きあい、というか。
お互い内面が歪みきってるから、逆に凹凸が噛み合う感じのサラッとした仲がちょうどいいんだと思います。
結婚してから恋愛感情が芽生えたとしても、べたべた慣れ合うのはこの二人には合わなさそうですね。
……とか途中まで思ってたはずなのですが、リュカがデレ始めてから私の中の何かが弾けて(ぇ
もーいいよ、お前ら気の済むまでいちゃいちゃしやがれー!!と自棄になったのが最終話。いっそ一周して満足してます。
しかしリュカのやつ、結婚してから一話に一回のペースでデボラ抱っこしてますね。
スキンシップ好きなのかなぁ。
私がやらせてたんだっけか。
すまん。
まとめ
最初は原作の辻褄合わせにちょいちょい書いていくつもりだったのですが、気付けば長距離逆走な話になってしまいました。たまには女王と小魚の関係だけじゃなく、こんな主デボもいいんじゃないの、と思ってくだされば嬉しいです。
ここまで読んでくださってありがとうございました!!