Break the ice【3】

「きゃあっ!!?」
 度重なる斬撃は止まず、かわそうとした足がもつれる。
「もらったぁっ!!!」
 畳みかけるように懐に飛び込んできた紅姫。鎌を振りかぶる一瞬の隙をついて、すかさず銃弾をぶちこむ。
「甘いっ!!」
「なっ……!?」

―――ダン、ダン、ダン!!!

 派手な銃声が3発。ゴム弾とはいえ、ゼロ距離で当たれば相当なダメージのはず。場外に沈む紅の影を見送り、後ろに倒れ込みながら勝利を確信する。
「いよっしゃあ……うわぁ!!?」
 地面に着こうとした手が空を切る。預けようとした重心が行き場を失くし、景色がぐるりと反転。しまった、あたしも沈むのか。

―――どしゃっ。

 情けない音と同時に、試合終了のホイッスルが高らかに鳴り響く。どうやらこの勝負、引き分けのようだ。
「……あいたたたー。カッコ悪いなぁ、もぉ」
 あれだけの熱戦を繰り広げた挙句着地をミスしてでんぐり返りだなんて、みっともない。“死の狙撃手-デス・スナイパー-”梶小都子の名折れである。
「詰めが甘いのはあたしの方、かぁ……あとで真那に怒られるかな」
 小都子がぼやきながら2階席に目をやると、何やら見知らぬ男女二人組と仲良さげにおしゃべりしている真那の姿が見えた。
 珍しい、こんな場所で友達作るようなタイプじゃないのに。心境の変化でもあったのだろうかとぼんやり眺めていたら、さらり、と紅の髪が目の前で音を立てた。
「立てる?」
「……あぁ、ありがと」
 いつの間にかフィールド上に戻ってきていた咲樹が、小都子に向けて手を差し出している。間近で見ると、先程まであの巨大な鎌を操っていただなんて思えないほど華奢な体躯だ。実は江戸時代からタイムスリップしてきたんですーって言われても、うっかり信じちゃいそうなくらいには“紅姫”って感じ。
 しかし好意に甘えて手を取ると、少しだけ印象が変わる。稽古を重ねて潰れたマメが硬くなっている、これは立派な武器使いの手だ。
「同年代の女子にここまで追いつめられたのは初めてよ。とても楽しかった」
「へへ、あたしも! 最近手ごたえのある相手に当たんなかったから超興奮した! ありがとっ!」
 小都子は健闘を称える振りをして、助け起こされた勢いを利用してギュッと抱きついてみる。ううむ……案外筋肉質な硬い身体してる、服で隠れてるけどみっちり鍛えこんでるのね。
 パッと見の印象で油断したのも敗因の一つだったかなぁ、なんて反省しながらベタベタと触っていると、咲樹が不審そうな目をしてこちらを見ていた。
「……いつまでこうしているつもりかしら」
「あ、ごめんごめん! 別に変な意味はないよっ」
 小都子は慌てて咲樹から手を離し、頭に浮かんだとっさの話題で気を逸らす。そっちのケがあるなんて噂が入学前に出回ったら、友達できなくなっちゃうじゃん!
「そっ、そういえばさ! 引き分けってことは、どっちがチャンピオンと戦えるんだろーね?」
「どうなのかしらね。ジャンケンでもして決める?」
「えー、あんだけ戦ったのに結局ジャンケン!? それは納得できないよー!」
 とはいえ、もう一度同じレベルで戦えるかと言ったら正直自信がない。ジャンケンだろうが再試合だろうが、運だめしの一発勝負に変わりはなさそうだ。
 中二階の放送席を見上げると、窓の奥で実況していた先輩たちがバタバタと紙のやり取りをしている姿が見える。どうやら引き分けの場合は想定していなかったらしい。騒々しい運営に二人して顔を見合わせて肩をすくめていると、ブツン、とスピーカーから音がした。無線マイクの接続が切れたようで、放送席はさらに騒然としている。何だろう、トラブルかなぁ……
≪―――いいじゃねーの、引き分け上等ッ!!≫
 キィィン、というハウリングと共に会場に響き渡ったのは、張りのある威勢のいい声。客席からキャアア、という黄色い悲鳴も聞こえてくる。
 声のする方へ振り返る。入場口を照らすスポットライトの先に、藤之江学園の学ラン姿の男。床置きのスピーカーに直に繋いだハンドマイクを携え、仁王立ちしている。
≪素人にしちゃあいい動きだが、スーパー鎌使い陣内様からしてみりゃひよっ子同然!!≫
 名乗りの通り、陣内とやらは咲樹に負けないくらいに大振りの鎌を肩に担いでいる。『スーパー鎌使い』という称号のダサさも気になる所ではあるが。
≪運営揉めてっけど、めんどくせーからスマートにいこうぜ!! タイマン勝負にこだわるからゴチャゴチャすんだろ!?≫
 えらく自信あり気に続ける陣内。唐突な登場に狼狽するこちらを気にするでもなく、
≪二人まとめてかかってきな、子猫ちゃん達?≫
 ビシッとこちらに突きつけた人差し指で、挑発的に指招き。黄色い歓声で会場が沸く。
 一方小都子は“子猫ちゃん”という単語のチャラついたインパクトに今度こそ硬直した。ひとくくりに子猫扱いされた咲樹も反応に困っているらしく、引きつったような、強張ったような、何とも言えない顔をしている。
 ライブでも始まりそうな盛り上がりを見せる会場。そこに水を差すかのように、ブツン、とスピーカーから音がする。放送席の無線マイクが復活したらしい。聞こえてくる素の怒鳴り声は、先程まで実況していた先輩生徒の声だろうか。
≪コラぁ陣内っ!! 勝手にルールを変えるんじゃありませんっ!!≫
≪いーだろ別にぃ。次の試合時間押す方がメーワクだろーがよ≫
≪何言ってるんですか!! 2対1なんて自分から不利にしておいて、万一負けるようなことがあれば……!!≫
≪うるっせーなぁ!! 学園最年少チャンピオンはチューガクセー相手に後れを取るほどボンクラじゃねーっつーの!! ―――あっ≫
 ブツン。再度スピーカーから無慈悲な音。
 どうやらハンドマイクの回線を強制的に切ったらしい。陣内は響かなくなった手元のマイクを不満げにポコポコ叩いている。
≪……ええい、こうなりゃヤケだ≫
 放送席の声が投げやりに呟く。
≪―――チャンピオンの要望により、内容を変更してお届けいたしますッ!! 挑戦者2名、異存はありませんね!!?≫
「“ありませんね”、って……」
 アナウンスの勢いに気押される。あの言い方じゃ、こっちに選ぶ権限なんてなさそうだけど。
 雑な運営に顔をしかめた咲樹が、呆れたようにこちらを振り返った。
「あなたはどうする? 先輩方はあんなことを言っているけれど」
「んー……まあ、賛成かな。人数増えた方が盛り上がるっしょ、きっと」
「私も、別に異存はないわ……ないけど、」
 咲樹はそこで言葉を切り、ハンドマイクを諦めてポイと放り投げた陣内を真剣に見据える。
「あの男、浮ついているようで隙がない。心して掛からないと、たとえ二人でも……」
≪それではチャンピオン、準備を……あーもうっ、手を振らない!! ウィンクもしない!! 投げキッスとかいいから!! さっさと壇上に上がりなさーいッ!!≫
 苛立つアナウンスをもろともせず、陣内はファンの女生徒に愛想を振りまき続けている。手慣れた様子のパフォーマンスは、さながらテレビの向こうのスター歌手のようだ。
 ……うーん、あたしにゃ隙だらけにしか見えないんだけど。むしろ二人掛かりでボッコボコにしちゃわないか心配なくらい。
≪ったく……参りましょう、バトルトーナメント第3会場チャンピオン戦!!≫
 ああでもさっきの試合、油断して掛かったから苦戦したんだっけ。紅姫もあんな事言ってるし、あんま甘く見ない方がいいのかなぁ。
≪頂点に待ちうけるは、見た目にそぐわぬ実力派!! 確実に相手を追い詰める戦闘スタイルに、付いたあだ名が“死神・陣内”!! 藤之江武闘大会史上初の1年生チャンプ、陣内武!!≫
 これまた随分不穏な肩書き……アナウンスだけ聞くと最凶な感じ。相手が読めずに不安が募る小都子の肩に、ポンと手が置かれた。
「気を引き締めて行きましょう」
 完璧に接近戦タイプの紅姫は、自分の役割をわきまえて颯爽と前へ進み出る。チャンピオンに相対する堂々とした佇まいは、姫というより将軍か。
「後ろは任せたわよ、小都子さん」
 ブン、と手持ちの鎌を一閃。武闘派姫の威厳すら感じる後ろ姿に、不思議と気分が高揚してくる。
 いつの間にか、小都子の胸に立ちこめていた不安は消えていた。さしずめあたしは、姫を守る用心棒ってとこかな。うん、悪くないかも。
「……オッケー! がんばろーね、咲樹ちゃん!」
 弾倉にゴム弾を装填。ジャキン、と回るリボルバーの音で、自分の中のバトルスイッチをONにする。
≪なお一部音声が乱れました事を謹んでお詫び申し上げます!! それでは―――≫
 用心棒は用心棒らしく、死神相手だって派手に暴れてやるんだから!
≪―――ファイッ!!!≫

 

 

 10秒。
 ううん、もしかしたらもっと短いかも。
「……な、」
 天井で輝く眩しい水銀灯が、あざ笑うように小都子を見下ろしている。
「何……今の……!?」
 場外で仰向けに倒れ込んだまま、やっとの思いで声を絞り出す。ああ、なんて清々しい程の惨敗だろう。まさか一日2回もでんぐり返りする羽目になるなんて。
 咲樹が鍔迫り合いで抑え込みにかかった所を小都子が後方から援護射撃、動きが鈍った所を咲樹がトドメ、そんな流れだろうと予想をしていた。しかし陣内は威嚇射撃をすべてかわし、相対していた咲樹をあっさり突破し、小都子に狙いを定めて切りかかってきた。距離を離そうととっさに放った銃弾は、どんなカラクリか全て陣内の鎌に“切”られた。そして小都子は弾を撃ちきる前に陣内の刃に捉えられ、強烈な横薙ぎでふっ飛ばされたのだった。
 小都子は足りない脳味噌を働かせようと、仰向けのまま頭を抱える。弾をかわす程の反射神経は、相手の実戦慣れと自分の射撃の腕の未熟さ。一振りで人一人吹っ飛ばす衝撃は、相手の筋力と自分の体重の軽さ。ここまではギリギリ納得できる。
 しかし、陣内が携えていた大鎌は咲樹と同じダンボール製だったはず。銃弾を“切り刻む”なんて、ダンボールに出来るわけない。
「あーん、わかんないよー! もー!」
 小都子は頭を掻きむしりながら、起き上がって辺りを見渡す。無残に散らばる細切れにされたゴム弾。その鋭利な切り口に寒気がする。マジな喧嘩だったら、細切れにされてたのはあたし達ってことだよね。うひゃー。
≪―――勝てない理由、教えてあげよう≫
「へ?」
 見上げると、フィールドでスポットライトを浴びて仁王立ちするチャンピオン。いつのまにか有線のハンドマイクを再び携えている。
≪“魔獣”とフツーの生き物、何が違うか。わかるかい?≫
「んーと……見た目? 黒っぽくて、不気味なのとか」
≪ちっちっち。そんなん言ったら黒猫もゴキブリも魔獣になっちまうだろ≫
 陣内はおどけて指を振る。
≪正解は、魔力の有無≫
「……魔力?」
≪そ。奴らは総じて魔力の鎧を纏ってて、並の物理攻撃は通らねぇ。かといって防戦一方じゃやられてばっかだ。だからかつてのかよわい人間達は、生き残る術を考えた≫
 芝居がかった仕草で、陣内は片目を閉じる。
≪目には目を、歯には歯を、ってな。魔力の鎧を崩すにゃ、魔力の刃で斬りかかるしかねぇと気付いたのさ≫
「……どういうこと?」
≪人工的に開発された、疑似的に魔力を生み出す“超魔術的構築式”。コイツを武器として使いこなすことで、人間は“退魔師”として奴らと対等に渡り合えるようになったんだ≫
 ……退魔師って、ただ魔獣と殴り合ってやっつけるだけの人達じゃなかったんだ。自分の無知が会場の空気に水を差しそうだったので、小都子は口を噤む。
≪フツーの人間と“退魔師”じゃ、戦い方のレベルも内容も段違い。何も知らないキミじゃ、魔法使いにゃ勝てねぇよ≫
「じゃあ、この学校は、その……なんちゃら式を使える人しか入れないの?」
≪んなこたねぇさ! オレ様だって半年前は何も知らずに入学したクチだ。……それでも、≫
 言葉を止めた陣内は、おもむろに先程まで使っていたダンボール鎌を放り投げ、パチンと指を鳴らす。

―――ザンッ!!

 ……それは、一陣の風に攫われて、細切れの紙屑と化した。
≪この“切”の式のおかげで、今や学園のチャンピオンさ。ま、才能次第ってこったな≫
 舞い散るそれは、まるで桜吹雪。スポットライトに照らされた絵画のような風景に、うっかりすると見惚れてしまいそうだ。
 パフォーマンスに湧く会場を尻目に、陣内はへたり込む小都子を軽々とフィールド上へ引き上げる。そして、舞踏会でも始めるかのように慣れた仕草で肩を抱き寄せた。
≪素人とはいえ、怯まず開幕一発ぶっ放せる度胸はなかなかのモンだ≫
 優しく頬を撫で、魅惑のウィンク。
≪磨けば光るぜ、子猫ちゃん≫
 この会場が黄色い歓声に包みこまれるのは何度目だろうか、アホらしくて数える気はない。ないけど……悔しいけど、キャーキャー言いたくなる気持ちは、ちょっとわかっちゃいそう。
 それくらい、この人は強い。頬を包むその手に出来たマメとタコが、十二分にそれを物語っていた。

 

「……馬鹿馬鹿しい」
 陣内の背後から冷えた声。
「式は、遊びで使っていいものじゃない。先人に対する冒涜です」
≪おーっと。手厳しいね、こりゃ≫
 先程の戦いで結構な距離まで吹っ飛ばされていた咲樹が、いつの間にかフィールドに戻ってきていたらしい。先程まで振りまわしていたダンボール鎌は柄のど真ん中ですっぱり、真っ二つに切られている。
≪噂にゃ聞いてるぜ。“代々退魔師やってる家系から大型新人が入ってくる”ってな≫
「ええ、その通り。私は幼い頃から両親に師事して、式の扱いを叩きこまれています……だからこそ、」
 咲樹は忌々しげに、陣内に人差し指を突きつける。
「あなたのその破天荒な“切”の使い方が理解出来ません」
≪出来ないならしなきゃいい。この学校は自由な校風が売りでね……オレ様を活かす最高のパフォーマンスとして、式の腕を磨く事も可能なんだぜ?≫
「……無粋ね。軽佻浮薄が過ぎるわ」
≪キミの方こそ、生意気が過ぎるな。負け惜しみかい、そりゃあ≫
 睨む咲樹を笑顔でいなす陣内。試合はとうに終わっているというのに、フィールド上の空気はジリジリとひりつくばかり。
 そういえば咲樹ちゃんの紹介の時、アナウンスの先輩が退魔師の名門って言ってたっけ。詳しくないからわかんないけど、何か気に障る事でもあったのかなぁ。
≪……ま、キミのよーに時代遅れの式を使ってるようじゃわかんねーだろうなぁ≫
「じっ、時代遅れですって!?」
≪力の錬成も式の構成も古臭くて無駄だらけ。古風な子も嫌いじゃねぇが、もっとスマートな方が好みだね≫
「んなっ……!!」
≪文句つける前に、傷の一つでもつけてみたらどうだい?≫
 怒りに震える紅姫を、余裕綽々のマイクパフォーマンスで挑発する死神。両サイドでバチバチと火花を散らされて、小都子はハラハラして気が気ではない。
 均衡を崩したのは、陣内の方だった。
≪……ま、いいさ。気の強い美人はタイプなんだ≫
 やれやれと肩をすくめた陣内は、脇にいた小都子にハンドマイクを投げ渡す。
≪わあ、ちょっと……えっ!?≫
 落ちそうになるマイクを慌てて受け取る。反響する自分の声に驚いていると、目の前にいたはずの陣内が消えている。
「きゃあ!!?」
 悲鳴で振り向く。一瞬で背後を取った陣内が、咲樹の右手を取り腰に手を添え、ワルツでも踊り出しそうな格好で抱き寄せていた。
「来年入学して来るのを楽しみにしてるぜ、子猫ちゃん」
 浮いたセリフは欠かさないまま、流れるように頬にキス。
「……は!!?」
 怒りだか照れだかわからないくらいに顔を赤くした紅姫。髪色のせいもあって全身真っ赤っかだ。
 ……って、キス!?
≪いやいやいやっ、どー考えてもダメっしょ!!? 会って間もない女の子に許可も無くなんつーことをっ!!≫
 ファンの黄色い声を抑えて体育館中に響き渡る小都子の抗議。意にも介さず、陣内は決め顔で髪を掻きあげこちらに目を向ける。
「おやおや、ヤキモチかい? 一人占めしたがるなんてイケない子だ」
≪ちがっ、そんなん一言も言ってないし!!?≫
「悪いけど、全ての女の子に平等に愛を注ぐのがオレ様のポリシーでね!」
≪アンタのポリシーに興味ないよっ!!≫
「さあカモン! 今なら特別にキスされたい場所のリクエストも受付中だぜ!」
≪はぁ!? 行くわけないしっ!!≫
「ふっ、照れ屋さんだね。来ないんだったらこっちから行くぜ?」
≪わああ、そういう意味じゃないっ!! こ、こ、こっ、来ないでっ!!≫
 両手を広げてゆっくりこちらに歩み寄る陣内。拒むあまり、とっさに小都子が取った行動は。
≪来ないでったら――――ッ!!!≫

―――ダン、ダン、ダン!!!

 先程の戦闘の残弾、計三発。ロクに照準も合わせないまま陣内に向かって放つ。
 一発は避けられ、一発は外れ。最後の一発は陣内を捉え、

―――パァンッ!!!

「ぐはっ!!?」
 派手な音を立てて、腹部付近で勢いよく破裂したのだ。
 ……嘘、でしょ。紅姫戦の時も死神戦の時も、この銃にはただのゴムの塊しか装填してないっていうのに。
≪は、爆ぜた……!? どうしてっ!!?≫
≪―――“爆”の式、ですねぇ。珍しい≫
 放送席の先輩の随分と冷静な声が、スピーカーから響く。
≪無意識に発動出来たという事は、かなり相性がいいのでしょう。きっと貴女も陣内と同じ天才型だ、“死の狙撃手-デス・スナイパー-”≫
「いやいやそんなこと言ってる場合じゃないっしょ、人一人倒れてんのに!!」
 小都子はハンドマイクも拳銃も取り落として、倒れた陣内に慌てて駆け寄る。頬を叩いても揺さぶっても、陣内はピクリとも動かない。
「ちょっ、あの……じ、陣内先輩っ!? 起きてってば、ねぇっ!!」
≪……あーもう、全く≫
 やる気なさげな溜息が、体育館に響き渡る。
≪陣内、いつまでも転がってないでさっさと控室に戻りなさい。あんまり年下の子を怯えさせるもんじゃありませんよ≫
 呆れたアナウンスに応えるように、陣内はむくりと起き上がる。
「キミへのキスはまたの機会かな」
「……いや、そういうのいいんで」
 ケロッとしている死神は、キザさに辟易する小都子に向かって懲りずにウインクをかますのだった。