DQ5  ぼくとわたしのおとうさん

 わたしのお父さんは、とてもカッコいい。

 初めて見た戦闘は、圧巻だった。
「ゲレゲレ、そっち回り込め!」
「がうがうっ!!」
「ピエール回復早く! 相棒はイオラで応戦!!」
「はいっ!!」
「ぴきー!!」
 仲間のモンスター達に指示を飛ばしながら、自身も剣を振り敵に切りかかっていく。今まで兄達と協力してやっとの思いで倒していた強力なモンスターが、いともたやすくなぎ倒されていく。
「ブラウン、メッキー! ゲレゲレに加勢して畳みかけろ!」
「おっしゃー!!」
「めききー!!」
 共に旅をしていた時は思い思いに戦っていた仲間モンスター達の動きが、父の指示のおかげで見違えるように機敏になっている。まるで別人だ。
「……すごい、ね」
 隣で呆然としていた双子の兄が呟く。
「あれが……あの人が、わたし達のお父さんなのね……」
 圧倒的な強さを見せつけられて、胸がドキドキする。きっとそれは、隣の兄も同じだろう。
 戦闘は、あっという間に終わってしまった。コキン、と軽く肩を鳴らした父は、重苦しくため息をつく。
「あー、なまった……体が全っ然動かんな……」
「リュカ、石になってる間に随分キレが無くなりましたね!」
「……ピエールお前、この8年で随分口が達者になったな?」
「はい、お城の人達とのおしゃべりで上達しました!」
「褒めてるわけじゃねぇよ」
 あの戦いぶりで、なまった、だなんて。そのうえあの余裕はなんなの。
「イース、アンナ」
 名前を呼ばれて、ドキリと鼓動が跳ねる。
「もうちょっと戦って勘を取り戻したいんだ、付き合ってくれるかい?」
 先程の戦いからは想像できないような、人懐っこい困った笑顔。
 あの人と同じ血が流れている。なんだかそれだけでぞくぞくしてしまう。

 わたしのお父さんは、とてもカッコいい。
 お父さん以上の男の人は、きっとわたしの目の前に現れない。そんな気がしてる。

 

 

 

 ぼくのお父さんは、とてもたのもしい。

 旅の途中、街に立ち寄った時。ご飯の買い出し係は、僕とお父さん、妹とお母さんに別れて交代しながら受け持っている。
「夕飯何にしようか?」
「僕、カレー食べたいな。お肉いっぱい入ってるやつ」
「ああ、いいな……何がいるかな」
「お肉と、ニンジンと、えーと……玉ねぎはまだ馬車に余ってたけど、ジャガイモがなかったかも……いっぱい買おう!」
「ジャガイモって時間経つと芽が出るだろ、買いだめしていいのか?」
「大丈夫! 陽の当らないとこに置いとくと結構持つよ。それに、芽なら僕でも包丁でとれるもの」
「そうなのか…イースは物知りだな」
 男2人、主婦の様な会話をしながら街を歩く。
 戦闘の時の凛々しさとは打って変わって少しだけぼうっとしている父を見られるのは、買い出しの時の僕だけの特権なのだ。
「……何だか、不思議だな」
「へ、何が?」
「ずっと探してた伝説のユウシャサマと並んで、夕飯の買い出ししてる今が。夢の叶い方にも色々あるんだって、しみじみ思うよ」
 さて何の肉なら安いかな、とぼやく父の、大きい背中を見上げる。
 そう、強くてかっこよくてたのもしい、僕が誰より尊敬してやまない父は、他の誰でもない僕自身を探しだすために旅をして来たのである。僕だけが特別、だなんて、そんなことに優越感を感じているというのは、妹や母には内緒なのだ。
 にやける口を軽く覆ったそんな時、ふいに父が立ち止まる。
「……ヤベ」
「どうしたの?」
「財布、忘れた……」
 強くてかっこよくてたのもしい父は、そのたくましい腕で頭を抱えている。こんなどじなところを見られるのも、僕の特権。
「もー、仕方ないなぁ。僕のお小遣いの財布があるから、それで払おう?」
「うわー悪いな……お詫びに、今度の買い出しの時にお菓子でもなんでも1コ買ってあげるよ」
「ホントに!? えーと、えーと、じゃあ僕、本がいいな! こないだ貸本屋さんで見たのの続き!」
「わかった、今度本屋に寄ろうか……あ、母さんとアンナには内緒な?」
「うんっ!!」
 僕は、人差し指を立てる父の真似をする。うっかりやな父との、男と男の約束だ。

 ぼくのお父さんは、とてもたのもしい。
 そんなお父さんに頼られるの、実は悪い気はしない。僕もしっかりしないと。

 

END

 

 
あとがき

DQ5の双子ちゃん目線のお父さんのお話でした。
お父さん大好きな双子が大好きです。懐かれてまんざらでもないお父さんも大好きです。
今回の話はScarlet Honeyの番外編的な感じですが、本編知らなくても何の問題ないです。
うちの主デボ一家全員を書く予定だったのですが、最後に入れる予定だったデボラさんの独白が時間の都合で無くなったのは内緒です。
そのうち時間のある時にでも、どっか別のページ作って付け足しておこうと思います。